アンコウのオスは融合するとは限らない――アンコウの様々な愛のカタチ


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深海では太陽光が届かないために常に暗闇に包まれている。暗闇の中で身を隠すのは簡単かもしれないが、逆に暗闇の中で獲物を探すのは難しい。

ましてや、暗闇の中で同種の相手と出会って適期に生殖するのは非常に困難であると思われる。

ビワアンコウのオスはメスと同化する

ビワアンコウに属するアンコウのオスはメスを発見すると、鋭い歯でメスに噛みつく。すると、やがてメスの血管や表皮と癒合して精巣以外の全ての器官を失ってメスと一体化してしまうのだ。

こうして数匹のオスが一匹のメスに寄生し、メスからの信号によって放精するだけという余生を送ることとなる。しかし、この方法であれば同種と出会うチャンスを逃すことなく確実に生殖できるというわけだ。

融合したオスは寄生虫だと考えられていた

当初、この一体化した雄は寄生虫であると考えられたそうだ。
このような性質を持つアンコウは他にもミツクリエナガチョウチンアンコウ科やキバアンコウ科などが存在する。

また、寄生するタイプのオスは一切エサを取ることをせずに幼生で得られた栄養のみで生きていくような種も存在する。もし寄生することができなければ、そのオスは早くに死んでしまうのだ。

たった一人の女性の為に多くの男性が群がり、その一生の全て捧げるというロマンチックな話は何も人間だけではない。


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こちらはカエルアンコウの一種。深海性のアンコウとは異なり色彩豊かな印象を受ける。

一夫一妻で寄生するオニアンコウ

一方でオニアンコウ科のアンコウは、一匹のメスに対しオス一匹だけが寄生する。恐らくは複数の雄が寄生し生殖を行う事で多様な遺伝子を残すの前述のアンコウとは異なり、寄生に成功した一匹の優秀なオスと生殖を行う事で優秀な遺伝子を残そうとする繁殖戦略であると考えられる。

一妻多夫のアンコウよりも相思相愛で文字通り一心同体のオニアンコウは人間にとっての理想的な愛の形と言えるかもしれない。

チョウチンアンコウ科は寄生せずに自由生活を送る
ここまで寄生するアンコウのオスについて説明したが、アンコウの仲間はオスが寄生しない種類が多数派であり、たとえばチョウチンアンコウ科のオスは寄生せずにオスとメスがそれぞれ独立して自由生活を行っているのだ。

アンコウの多くは「性的二形」といい、オスとメスの体の大きさが極端に異なっている。アンコウの場合はメスに対してオスが小さく、この形態は「矮雄」と呼ばれるのだが、このような自由生活を行うチョウチンアンコウの場合は他の寄生性のアンコウと比較するとオスの体は大きく発達している。

ヒレナガチョウチンアンコウは寄生したりしなかったり

アンコウの仲間には他にも面白い種類が存在し、たとえばヒレナガチョウチンアンコウ科のアンコウはそれぞれが独自に性成熟して寄生を行う雄の個体もいれば、寄生せずに自由生活する雄の個体の両方が存在している。

人間とアンコウ―――全く違う種であるにも関わらず、彼らのそれぞれの愛の形は人間の多様な人生観を体現しているように思われ、その1つ1つにどこか親近感を抱いてしまう。

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